紙テープ鑽孔装置と8ドットフォント

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十年ほど前のことだが、ちょっとした出来心でNCマシン用の紙テープ鑽孔装置を中古で買ってしまった。かれこれ四半世紀も前の製品で、動作が少々不安定ではあったものの、PCと接続してターミナルソフトからデータを転送すると、勇ましい音を立てて紙テープに鑽孔される。COMポートにRS232Cケーブルを接続して各種パラメータを設定するのが些か面倒ではあったものの、何度か試行錯誤しているうちに正常に動作させることに成功した。因みにイギリス製のGNT-4604という製品である。過日、自宅の整理をしていて、この鑽孔装置が出てきたので久しぶりに動かしてみたが、普通にファイルを転送してパンチするだけでは、あまり面白くない。実は当時、こんな産業廃棄物寸前の装置を入手したのには、別の目的があったのだ。

gnt4604-s.jpg

紙テープには、ガイドホールを除くと8個のホールをパンチすることができる。要するに一列あたり8bitということになるのだが、これとHP95LXなどの古のパームトップPCで用いられた8ドットフォントを組み合わせれば、日本語の文章を「印刷」することができるのではないかと目論んだ訳である。

ここで注意しなくてはならないのは、鑽孔装置はNCマシン用の各種コマンドを記録・再生するためのものなので、ASCIIコードのサブセットにしか対応していないということだ。ただし、設定によってはバイナリデータをそのまま出力することも可能なので、8ドットフォントのビットパターンをパンチさせることは可能だ。

そこで、テキストファイル内の文字を8ドットフォントのビットパターンに変換するコマンドラインのプログラムを作成してみた。これを用いて日本語文字列を「印刷」した紙テープのスキャン画像が以下のアニメーションである。因みに、フォントファイルには文字のパターンが上から下に格納されているので、文字を横書きで出力するためには、文字パターンのビット列を90度回転してやる必要があった。縦書きであれば、そのままで良いのだが、出力してみると、ガイドホールが視覚的に邪魔に見えたので、横書きにした次第だ。

こうして紙テープ上にパンチされた日本語文字列を眺めると何とも言い難い独特の趣があるものだ。老子先生も著作がこんな媒体に「印刷」されるとは夢にも思っていなかったことだろう。因みに上記のテープの末尾には、元となったテキストファイルそのもののShift JISデータがパンチされている。

さて上記で用いられている8ドットのビットマップフォントだが、30年ほど前に利用していたMacintosh SE/30に搭載されていたOsakaフォントである。当時のHP95LX用日本語エディタであるJmemoで使われることが多かった。

このフォントは、商用品だけあって極めて視認性が良いのだが、惜しむらくは著作権の関係でMacintoshのマシンを所有していないと使えないという問題があった(厳密に言えば、マシンを所有していても目的外使用となってしまうので全く問題がないわけではない)。

そこで、誰でも使うことができるフリーの8ドットフォントを作ろうというプロジェクトがHP95LXユーザーの有志の間で始まり、パームトップPCの小さな液晶画面上での視認性と、偏や旁の統一性を重視したフォントが作成された。このフォントは、プロジェクトの提唱者で、当時のニフティサーブのフォーラム「FYHPPC」の SYSOPをされていたNORIさんのお嬢さんのお名前に因んで「恵梨沙フォント」と命名されたのだった。

紙テープには8ドットのビットマップフォントであれば、その文字パターンを出力可能なので、上記の恵梨沙フォントを始めいくつかのフォントが利用できる。現在利用可能なフォントでの出力については、稿を改めて紹介することとしたい。

最後に、紙テープ鑽孔装置が紙テープをパンチしている動画を以下に示す。因みにパンチされているのは、カール・ブッセの「山のあなた」(上田敏訳)である。

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