BergのLittle Printerのサイトが閉鎖されてかれこれ10年になる。2011年に発売されたこの可愛らしいデザインのサーマルプリンターは、当時としては先進的なIOT的発想のガジェットだった。見掛けはただの小型プリンターのように見えるが、背後のクラウドシステムと連携したコンテンツ配信・購読環境を実現していたのだ。2016年に惜しまれつつクラウドサービスが停止されたが、その後も熱心なユーザーによる後継サービスの開発が進められてきた。
その取組みの中で最大の障壁となったのが「ブリッジ」の問題だった。これはLittle Printerのプリンター本体とクラウドサーバーとを繋ぐ以下のような小さな箱状のデバイスで、インターネット経由でサーバーから受信したコンテンツのデータをZigbeeでプリンターに送信する役割を担っていた。
このブリッジにはLANケーブルを繋いで電源を入れるだけでBergのサイトに自動で接続するファームウェアが内蔵されていたが、その接続先を新たな後継サイトに変更するためにはファームウェアの更新を行う必要があった。しかし残念なことにブリッジの設計はファームウェアの更新を想定しておらず、ユーザーが利用できる機能やツールは提供されていなかった。。
このためファームウェア更新にあたっては、ブリッジを分解し、基板に信号線をハンダ付けしてPCと接続した上でシリアル通信で様々なコマンドを送信するという、かなり繊細かつマニアックな作業が必要だった。しかしそもそも誰でも簡単にクラウドサービスに接続して利用できるというコンセプトの製品なので、こうした専門的スキルを要する作業を行うことのできるユーザーはごく限られていた。
加えて上記の作業は一般のユーザーにとっては難易度が高く、手順通りに行ったつもりでもファームウェアの更新に失敗するユーザーが後を絶たなかった。更新に失敗したブリッジは、初期化して工場出荷時の状態に戻すこともできず文鎮化することになり、ユーザーコミュニティーの中で「bricked bridges」と称されることになった。
またLittle Printerのプリンター本体もZigbeeによる専用ブリッジとの接続機能しか有しておらず、ブリッジから受信するデータの詳細も開示されていなかった。このためプリンターをPCと直接接続することも困難であった。
幸運にもブリッジのファームウェア更新に成功したユーザーは、サードパーティのNort Projectsが2019年に開設した後継サイトにプリンターを登録し、同時に公開されたiOS用のアプリを用いてユーザー同士でメッセージやコンテンツの送受信を行うことができるようになったが、ファーム更新に失敗したり更新自体を諦めたユーザーたちは、これを指をくわえて見ているほかなかったのである。
ところで上記の後継サイトとiOSアプリを用いたコンテンツの送受信は、一部の市販のサマルプリンターにも対応しており、例えば以下に示すPAPERANG製のポータブルプリンターを用いたBluetooth接続によるコンテンツ出力が可能だ。ただしそのためには、Linuxマシン上にBluetoothブリッジの機能を実装する必要があり、これまた専門的な知識とスキルが必要なのであった。
そのような状況の中で、ブリッジそのものの代替品の開発を目指したのが、Discord上のコミュニティー「tinyprinter.club」のJasper van Loenen氏を中心とするグループである。デジタルアーティストである同氏は、上述のNort Projectsの後継サイトとは異なる独自の後継サイトを開設し、Raspberry PiまたはSeeed Studio XIAO ESP32-C6を用いた代替ブリッジのためのファームウェアを開発・公開している。
同氏の後継サイトhttps://littleprinter.jaspervanloenen.com/esp-bridgeでは、上記二つのデバイスによる代替ブリッジの構築方法について詳しく解説されているが、とりわけ以下に示すSeeed Studio XIAO ESP32-C6を用いた代替ブリッジの構築は、極めて安価(1000円少々)かつ専門的な知識をほとんど要さない方法となっており、ファームウェアのインストールも上記のサイトからワンクリックで行うことができる。ユーザーに求められるのは、Wifi接続用のSSIDとパスワードの入力だけというお手軽さだ。これはほとんどBergのLittle Printerの初期設定時の操作と変わらない。
ファームウェアをインストールした代替ブリッジとプリンターをペアリングした後、同氏の後継サイトにアクセスしてプリンターを登録すれば、ブラウザ上のコンテンツ編集画面を用いて作成した様々なデータをプリンターに出力することが可能になる。
代替ブリッジの構築で、長年お蔵入りになっていた筆者のLittle Printerが再び利用できるようになった。かつてBergのクラウドで配信していたコンテンツの「Japanese Family Crests」などを出力してみるととても懐かしい気持ちにさせられる。今のところ、Bergのサイトのようなユーザーコンテンツの登録・自動配信機能等は実装されていないが、このプロジェクトではBergサーバーの機能の完全復元を最終目標としているとのことなので今後の発展に期待することにしたい。

コメントする